吟味した素材は、包丁を入れるそばから脂がのってすべりがよい。
季節や産地によって微妙に身質が違く、どれひとつとっても同じ魚はない。それらを長年の経験からの目利きと包丁捌きにより、最高の鮨種となるよう手当てをする。
握りの味や食感を大きく左右する、江戸前伝統の技「〆」。
特に〆る仕込みで重要なのは、鮨種によって塩のあて方を変えること。鮨は圧倒的に塩の仕事。だから「〆る」とは、最も気を遣う仕込みの一つ。
まぐろのサクを湯霜にして半日ほど漬け込む、また切りつけてから漬け込むことで旨みが凝縮しねっとりとした食感に。淡い味になりがちな茹で海老を、「甘酢」や「黄身酢おぼろ」に漬け込むことも江戸前鮨ならではの古典的な仕事。
「煮もの」は江戸前鮨の真打であり、その店の個性。穴子やたこは柔らかく炊き上げて、火を止めゆっくりと冷まし味をなじませる。蛤やあさり、帆立などは、煮汁に漬け込みゆっくり味を含ませる。「煮る」という仕事にこそ正当な江戸前鮨の仕事が息づく。
海老や、ヒラメ、鯛などのすり身入りの玉子は、ほたる火でじっくりと焼き上げる。手間ひまかけて仕込み、完成までに半日がかり。江戸前鮨の締めは、今も昔も玉子と相場は決まっている。まさに最上の和のデザート。
江戸前鮨における「のり巻き」といえば「干瓢巻き」。
甘辛く炊いた干瓢と酢飯、そして香り高い海苔の組合せは、江戸前鮨を堪能した締めに欠かせないもの。「握る」と同様に「巻く」という技術も江戸前鮨の職人として腕をみせる仕事である。
当店の看板商品である『穴子』。穴子はまず素材ありき。
背開きにし、丁寧に何度も洗いぬめりを取った穴子を、たっぷりの煮汁で身が崩れないように煮上げる。ふわっ、とろっとした食感にするには火加減が肝心。口の中で穴子と酢飯と煮ツメが混然一体となった次の瞬間、穴子は溶けてなくなり、穴子の濃厚な旨みの余韻が残る。これぞ江戸前鮨の極み。
当店では、静岡市葵区有東木にある丸一農園さんの本山葵を使用しております。丸一農園の本山葵は、緑色・香り・辛み・甘みなどのバランスが良く、農林水産大臣賞をはじめ数多くの賞を受賞しています。